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「選手とスカウトは親子」新米スカウト十亀剣の思い

こんにちは。
西武ライオンズ広報部です。

2月1日にnoteを立ち上げましたが、早速多くの方々に読んでいただき、たくさんの「スキ」やSNSでの温かいコメントを拝見しました!

実は、noteを検討してから立ち上げるまでに一年以上を要しておりまして…。こうしてようやく形にできたものが、少しでも皆さまに楽しんでいただけたことが本当にうれしかったです…!

皆さまに改めて感謝申し上げます。
まだまだ拙い内容で恐縮ですが、これからも皆さまにお楽しみいただけるように、さまざまなことをお伝えしていきたいと思います。

皆さまに読んでいただけることや反応をいただくことが本当に大きな励みになりますので、ぜひこれからもnoteを通じて皆さまとの交流を深めていければと思っています。

noteを開設するにあたり、時に道に迷いながらこの一年取り組んできましたが、球団スタッフにも、いつの日か自身の取り組みが実を結ぶ日を信じて一年中奮闘する人たちがいます。

それは、チーム編成の重要な役割のひとつ、“スカウト”です。
毎年秋のドラフト会議に向けて、今日のように凍える日も、酷暑の日も、一年を通して日本中を駆け回る彼ら。

そんなスカウトと選手の関係性や思いには、少し特別なものがあります。

今回は、2022年に現役を引退し、昨年はスカウト1年生として奮闘した、十亀剣アマチュアスカウトと2023年ドラフト1位指名選手の武内夏暉投手の、ちょっと不思議な関係性のお話をしたいと思います。


■「夏暉って呼びたい」

2024年1月。新人合同自主トレ中のCAR3219フィールドに、同じくアマチュアスカウトを務める竹下潤さんと共に、新人選手たちと談笑する十亀さんの姿がありました。

そこで盛り上がっていた話題は、“十亀さんの武内投手の呼び方”でした。

ライオンズのスカウトは、自身の担当した選手が無事入団した後には、“下の名前”で呼ぶのが定番。
しかし、十亀さんは武内投手のことを「武内」と呼んでいました。

「いつから呼ぼうかと迷っていたというか、恥ずかしかったというか…。
僕みたいな特殊な苗字だったら“かめ”とか愛称にもなりますけど、“たけうち”よりは“なつき”の方が呼びやすいですしね。それに担当スカウトは、親みたいなものですから。だから本当は夏暉って呼びたい」

少し照れくさそうに秘めていた“子”への想いを教えてくれました。

いつから「夏暉」と呼ぼうか。
昨年10月のあの運命のドラフトの日から、十亀さんは迷っていたのでした。

■涙を流したあの日から

2023年10月26日(木)。プロ野球ドラフト会議当日。
選手たちの人生を左右し、スカウトの1年間の仕事が実を結ぶのかが決まる運命の日。
十亀さんは、武内投手が所属する國學院大学近くの電気屋のテレビ売り場にいました。

事前にドラフト1位指名を公言していたライオンズが、そして担当していた自分自身が、武内投手の下へ指名権獲得と共に1秒でも早く駆けつけられるように。

3球団競合の末、ライオンズが交渉権を引き当てガッツポーズで喜びを表わにする松井監督。そしてそれを見て満面の笑みを浮かべる武内投手の様子が十亀さんの目に映りました。

「俺、泣くんだって思いましたね」

決して涙もろいタイプではないという十亀さん。
運命のくじ引きを終えた瞬間、その目には自然と熱いものがこみあげていました。
(電気屋さん、テレビを買わないのに、でかい男がずっと立ち止まり、涙を流してスミマセン…。)

スカウトにとって、“プロ野球選手 武内夏暉”という子が生まれた瞬間。
スカウト十亀剣と野球選手武内夏暉の関係性が、特別なものに変わった瞬間でした。

■十亀さんの“子”への思い

2人の関係が少し特別なものになったあの日から、“子”のことを考える十亀さんにはある想いがあります。

「今の武内に思うことはたくさんありますが、言い過ぎてはいけないし、本人に感じてほしいと思うところもあるので、つかず離れずといった距離感でいます。野球に集中してほしいと思うので、もし他のことで自分が代わりにしてあげられることがあるなら、自分が手助けできればいいのかなと思っています。竹下さんが自分のためにそうしてくれたように、自分も武内にそうしてあげたいって思っています」

自身がプロ入りした時、担当スカウトだった竹下さんが、野球に集中できる環境を一生懸命整えてくれた過去を振り返りながら、十亀さんは話しました。

しかし、そんな親子関係もなかなか思うようにはいかない様子…。

「武内は基本的にあまりしゃべらないから。まだ素を隠している気がするんですよね。壁というか線がある気がします。アマチュア時代は会話ができないですからね。まだまだ探り合いの段階です(笑)」

しっかり者の武内投手は、クールな印象で、割となんでも自分で解決し、なんでもできてしまうタイプ。
自立した姿は頼もしいけれど、少しは頼って欲しいというのが親心です。

そんな2人の関係をひとつ進めるためにも、まずは呼び方から一歩踏み出したいと十亀さんは考えていました。

新人合同自主トレ最終日。
未だに十亀さんは、武内投手を「夏暉」と呼べていませんでした。

そんな姿に、十亀さんの“親”である竹下さんから檄がとびます。

「呼ぶなら今日だろ!」

竹下さんからの発破を受け、十亀さんは初めて「夏暉」と武内投手に声をかけました。

それを聞いた武内投手は照れ臭かったのか、視線をチラチラさせ、まるで聞こえていなかったかのように同期と会話を始めてしまいました。
それでもこみ上げるうれしさは隠しきれていません。
帽子のツバから見える武内投手の目尻は下がりっぱなしでした。

サングラス越しでもわかる、十亀さんの照れくさい表情や、ふたりを見守った竹下さんもホッとした表情をみせ「夏暉」の一言が、その場にいた全員の心を温かくしました。

親子がひとつの線を越え、その関係性に新たな一歩を踏み出した瞬間でした。

■親子のこれから

2月6日からいよいよ春季キャンプが始まり、スカウトと選手は物理的にも距離が遠くなってしまいます。

「キャンプに行った後でも、いつ何を聞かれても良いように、しっかりと様子は追いかけておきたいなと思います」

武内投手のここまでの姿に安心してはいるものの、やはり心配…。
そして子の成長に負けないように、親である十亀さん自身もさらなる活躍を誓います。

「スカウトとして、1年目で様々なことを把握できたので、2年目では広く、深く仕事をしていきたいと思っています。親としてさらに活躍する姿を見せたいと思いますよ!」

獅子の新米親子が、新シーズンへ向けて走り出します。