ライオンズOB通信 武隈祥太編 球団一の長い肩書き 独特のキャラでファンに愛された男の今
株式会社西武ライオンズ 球団本部 ハイパフォーマンスグループ バイオメカニクス担当 兼 ファームコンディショングチェック担当 兼 ファーム・育成グループ付
武隈 祥太
SNS上でファンの皆さまが武隈祥太さんのことを投稿してくださるとき、非常に長い肩書きも一緒に書いてくださっていますが、最新の正式な肩書をまずは紹介させていただきました!
今回の「ライオンズOB通信」に登場するのは、武隈祥太さん。
長い肩書き。つまりたくさんの業務を兼務しています。
いったいどんな仕事をしているんだろう…。
ということで、今回は、現役時代から特徴的な風貌と独特のユーモラスでファンを魅了し、ライオンズのブルペンを支え続けた武隈さんの今を紹介します!
投げ続けた15年間。引退セレモニーは自ら発案
武隈さんは北海道・旭川工業高校から2008年に入団。
特に2010年代中頃は、2014年47試合、2015年67試合、2016年64試合、2017年58試合、2018年35試合に登板。
中継ぎ左腕として文字どおり大車輪の活躍を見せ、長きに渡りライオンズのブルペンを支えました。
本人いわく、現役時代の「武隈投手」を一言で表すと、
「球は遅いけど速球派」
「球種は、ストレート、カーブ、チェンジアップ、スライダー、以上!かなり球種の少ないピッチャーでしたね(笑)。でも自分のピッチングはストレートありき。球速は遅くても、いかにストレートを速く見せるか。バッターを打ち取るために、これは常に意識していました」
マウンド上ではピンチでもポーカーフェイス。試合を離れればチームメートとじゃれ合っているムードメーカー。そして、いつもファンを楽しませてくれる味のあるトーク。まさに愛されキャラでした。
しかし、晩年は左肩の痛みに悩まされ、2022年に引退。15年間の現役生活を終えました。
「引退を決意したのは、2022年の9月です。肩が痛くて、マウンドに上がれる状態ではありませんでした。引退試合で登板する、なんて絶対に無理。でも最後に、今までの応援に感謝を込めて何かしたい。だからアイディアを自分で出して球団に直訴しました(笑)」
この言葉のとおり、引退の発表方法は本人が発案しました。
当時の球団イベント担当社員に話を聞くと、
「武隈さんから、『他の選手で前例がないことをやってみたい』と相談がありました。ですので、試合前のセレモニアルピッチの枠を用意して、ファンにはサプライズで発表する形をとりました。あとは、映像はこう作りたい!このタイミングでここから登場したい!という細かいところまで、すべて本人の中に考えがありましたので、そのとおりに進めました。まさに『武隈祥太セルフプロデュース』でしたね」
ということで、前代未聞でしたが、2022年10月2日、公式戦最終戦の試合前、突然バックスクリーンのLビジョンに本人が登場し引退発表、そのままセレモニアルピッチで一球を投じる、というセレモニーが実現しました。
「いや~、実際やってみると、あまり声援に浸れなかった!って感じ(笑)。試合開始を遅らせるわけにはいかないし、進行担当の方の『はい3秒前!』っていう声もプレッシャーだったりして(笑)。でも、あんな場を用意していただいて、本当に感謝しています!」
こうして、応援してくれたファンの皆さまにラストメッセージを伝えることができました。
引退後の仕事を解説します
そして武隈さんは引退後すぐにチームスタッフに就任します。
バイオメカニクス担当 兼 副寮長として新たなキャリアをスタートさせました。
今シーズンの役職は冒頭のとおり、間違いなく球団一長い肩書きが名刺に書かれています。
ファンの皆さまも気になる?彼の仕事をひとつずつ紐解いていきましょう!
まず、バイオメカニクス担当。最近は耳にする機会も多くなったかもしれません。こちらは、トラックマン、ラプソード、ホークアイといった機器で測定した選手に関するさまざまなデータを元に、動作解析などを行って、技術向上のためにアドバイスを送るというお仕事。練習中のブルペンでの投球練習時などは、武隈さん自ら動画を撮影します。
以前にこのnoteでも紹介した加藤拓光さんは武隈さんと一緒に今も業務に励んでいます。
引退後すぐに就いたこの業務について、
「まったく初めての経験でしたが、特に戸惑うことなく没頭しました。まあ、もともと深く考え込むタイプじゃないんで(笑)」
と就任当初のことを振り返ります。
武隈さんは主にファームの投手陣を担当していますので、若い選手たちと接する機会が多くなります。そんなとき心掛けているのは、
「選手たちに対して、あえて自ら声を掛けないように、ということを意識しています。どの選手にも、今自分が考えていることや悩んでいることが必ずあるはず。だから、選手たちが必死で頭を使っているタイミングでは、あえて声を掛けません」
「でも、考え抜いても答えが出ないとか、もっと自分を高めたいとか、そういう選手は必ず自ら聞きに来ます。だからそれを待っているんです。いつ何を聞かれてもいいように、前回の試合、前々回の試合はこうだったよ、と言える準備は常にしています。あ、決してさぼってるわけじゃないんで、ちゃんとそう書いてくださいね!」
とのこと。
筆者と一緒にいた数分の間では、髙橋光成投手、菅井信也投手、シンクレア投手が、「武隈さん、ちょっといいですか?」と訪れ、アドバイスを求めていました。
つづいて、ファームコンディショニング担当。
これは、選手たちのコンディションを見える化して管理し、けがの予防に役立てるという業務。武隈さん以外にも、S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチやトレーナーといった担当者がこの業務を兼務しています。
例えば、武隈さんが持ち寄る選手の動作に関するデータ、トレーニング・メディカル部門が持ち寄る筋肉量や体調面のデータなどを掛け合わせて、けがに繋がりそうな動きを予見して防いでいく、という取り組みを行っています。
そして、ファーム・育成グループ付ですが…。
「秘密のプロジェクトなので言えません(笑)。いつか言える日が来たらその時は!」と本人は笑います。
※筆者補足:実際は、とある外部パートナーと水面下での共同プロジェクトに参加しておりますので、ちゃんと仕事しています。お伝えできなくてスミマセン!
こんなに多くの兼務があって、ファンの皆さまもSNS上でいい意味でイジってくださっていますが、本人は知っているんでしょうか…。
「もちろん、知っています。自分が気付く前に、『載ってますよ!』って加藤拓光がすぐに見せに来ますしね(笑)。ぜひフルで書いてどんどんイジってください!まあ、肩書が長いのは、『武隈は何をやってもいいんだぞ!武隈の思うとおり武隈らしくやってくれよ!』という球団からのメッセージだって捉えています」
「思いついたことは何でもトライさせてもらっていますし、肩書きや役職にこだわらず、名刺に書いてないこともやっています。最近は二軍・三軍とも実戦が増えてきていますので、スコアラーが足りないときはそれもお手伝いさせてもらっています。ボランティアで(笑)。どこにでも首を突っ込んでいます!」
と、どの仕事にも前向きに取り組んでいます。
グラウンド上でも、そんな武隈さんのまわりにはいつも笑顔が溢れています。
選手に慕われ、選手を良く知る武隈さんからファンの皆さまへ
武隈さんはこんなキャラクターですから、選手やスタッフ、ファンの皆さまからも慕われている存在かと思います。
そんな武隈さんから、あらためてファンの皆さんにメッセージです。
「現役を退いた今も関心を持っていただき感謝しています。同じように、ファームの若い選手たちのことも、もっともっと応援していただけたらうれしいです」
と若手選手のアピールも忘れません。
「このようなチーム状況で、ファンの皆さまの悔しい思い、私も感じています。そして、選手たちも悔しい思いをしています」
「6月の試合で、ゲンちゃん(源田壮亮選手)がヘッドスライディングして、悔しがるゲンちゃんを今井(達也投手)が迎えに行った、というシーンは記憶に新しいですよね。あの場面はファンの皆さまの見えるところでしたが、ベンチ裏やロッカールームなどのバックヤードでも、ミスをしてしまった選手や思うように活躍できなかった選手たちも本当に悔しがっています。それでも何とか次の試合で巻き返そう、明日はファンの皆さんに勝利を届けよう、とチームメート同士で声を掛け合っています。ライオンズはそういう一体感のあるチームなんです。ですので、変わらず声援を送り続けてほしいな、と願っています」
ここまでお読みいただきありがとうございました。今後もライオンズOBの近況をお届けしたいと思っています。