一歩ずつ頂点へ:鳥越ヘッドコーチの挑戦と意気込み
今シーズンからヘッドコーチに就任する鳥越裕介ヘッドコーチ。2006年に現役を引退後は福岡ソフトバンクホークス、千葉ロッテマリーンズで長い間コーチを務めてきました。「まだ所沢に慣れない」と笑いますが「2月に選手たちがどんな顔をしてくるのか、会えるのが今から楽しみです」とキャンプインを待ちわびています。
解説時代のライオンズの印象は山賊打線。ずっとチャンステーマが流れていて、当時、一人前になるだろうなと思っていた選手が立派に育っている一方で、現在は若い選手のギラギラした目つきと一体感に欠けると感じたといいます。
これまでご紹介した大引啓次内野・守備走塁コーチ、仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチ同様、ライオンズに在籍経験のない鳥越コーチは、どんなことを考え選手の指導に当たってきたのでしょうか。秋季キャンプで合流したチームの印象や来季の目標について語ります。
ヘッドコーチ就任と選手指導の基本姿勢
鳥越ヘッドコーチは、大分県出身。明治大から1993年ドラフト2位(逆指名)で中日ドラゴンズに入団。1999シーズン途中にトレードで福岡ダイエーホークスに移籍し、2006年に現役を引退しました。翌年の2007年から2017年まで福岡ソフトバンクホークス、2018年から2022年まで千葉ロッテマリーンズで、二軍監督やヘッドコーチを歴任しました。
ライオンズからのコーチ就任の話には「びっくりしました。それだけですよね。外部招聘のイメージがないチームからのお話でしたし、コーチ業は自分で手を挙げてするものではなくて依頼されるものですから、非常にありがたいと思いました」と話します。
コーチ歴は15年に及びますが、選手を指導するうえで心がけていることはずっと変わらず「とにかく選手を信じる」ことと「選手のことをよく知る」こと。これは引退後、コーチに就任したときから意識していますが、長くコーチ業を続けてきた今でも正解はないといいます。
「2007年からコーチを始めましたが、日々選手に教えてもらってきました。とにかく選手を信じるだけです。時間はかかりますが、信じれば応えてくれるんじゃないかなと思っています。僕らの仕事は野球を上手くなってもらうために、良い時間を提供しなければ意味がないので、それぞれの性格に合わせて、アプローチをしてきました」と言う鳥越ヘッドコーチ。
そのために欠かせないのが『選手のことをよく知る』こと。他愛もない会話を重ねていくと朝会っただけで、その日の体調がわかるようになるといいます。
また、千葉ロッテマリーンズ時代にヘッドコーチを務めていた時は、監督、コーチ陣、そして選手、それぞれの間に立ち、みんながやりやすいようにと仲介役を務めてきました。
「ヘッドコーチは、監督の方針を発信しなければいけないですし、逆にコーチの言っていることを監督に言わなければいけないこともある。選手への指導については基本的にコーチに任せますが、聞かれれば応えられる準備はいつでもしています」。
今は外部施設も充実しており、なんでもネット検索できてしまう時代ですが、ひとつの感覚が正解ではない、答えがないのがプロ野球の世界だと思う鳥越ヘッドコーチは、「自分で調べるのも、データを活用するのも大歓迎ですね。上達したいという思いがあるということですから。そのなかで私にできることがあれば何でも応えたいと思っています。そして選手達の図書館のような存在になりたい」と話します。
妥協なき指導。鳥越ヘッドコーチの勝利への執念
2024年11月に行われた秋季キャンプでチームに合流した鳥越ヘッドコーチですが、選手たちを見ていると「とにかく準備が遅い」と第一に思ったそうです。
「例えば朝食。私は朝起きて湯船に30分くらい浸かって、たまにはストレッチをしたりして体を起こしてから朝食会場に行きますが、食事をしていると、いかにも今起きてきました、みたいな選手が多い。このあと1時間ちょっとで全力疾走するようなプロ野球選手には見えないですね」。
準備がしっかりできてこそプロであり、それはプレーに影響が出ることはもちろん、けが予防に大きく影響します。福岡ソフトバンクホークスにコーチとして在籍していた時、同じような経験をした鳥越ヘッドコーチは、とにかくけがが多かったある選手にウエイトトレーニングをするよう指示しました。
「ウエイトトレーニングをして筋肉がついたら体が重くなるから嫌だ」という選手に「まずは一カ月やってみろ」と説得し、練習に付き合います。すると最初こそ言い訳をしていた選手ですが、一気にけがが減り、1年後には自らウエイトトレーニングに向かうまでに変化したと教えてくれました。
「その選手とは現役期間が被っていたから話を聞いてくれた、というのもあると思うんですけど当時は寮長、トレーナー、もうたくさんのスタッフを巻き込んでやりましたね。みんなでアプローチした結果だったので、とてもうれしかったですし、ライオンズの選手も変わることができると思います」。
厳しい指導をするイメージがある鳥越ヘッドコーチですが「勝とうと思ったら妥協できない部分はあるし、妥協して勝てるほど、プロ野球は甘い世界ではない。例えば、極論、ストライクをピンポイントで投げるとなったとき、20cmズレたらボールになる。その20cmをズレないようにするためにどうするか。常日頃、練習するしかありません。だから妥協したくない、そこを緩めたら勝てなくなってしまうので」。
10人のコーチがいて、1人だけそういうことをしていたら『厳しい』と見えてしまいますが、10人全員が同じことをしていたら、それは『当たり前』になる。厳しいと言うのは簡単で、その点は他のコーチとも協力しなければいけないところだといいます。
真逆の二人が紡ぐ新たなチームの未来
2024年の秋季キャンプ期間中は、宿舎から球場までを西口監督と共に移動した鳥越ヘッドコーチ。片道10分程度の車内ですが、今日の練習のことや他愛もない話まで多くの時間を西口監督と過ごしました。西口監督のことを「私とは真逆のタイプですね!」と笑ってみせますが、とても貴重な時間を過ごすことができたと振り返りました。 西口監督とは就任前に2時間半程度かけて会話したという鳥越ヘッドコーチですが、監督の野球論、チームの立て直しについての考えを聞いたうえで、今回の就任に至りました。
「選手に厳しく接したり、声を張りあげてくれる、まさに熱血指導って感じ。自分は冷めていると見られるから(笑)」と、西口監督も真逆のタイプであることを明かします。
秋季キャンプで初めて訪れた南郷スタジアムの階段の多さに驚いたという鳥越ヘッドコーチは「ファンの方にワクワクしてもらえるように、なんとか一歩ずつ、南郷の階段からのぼって、一番上を目指したい。どこかで二段飛ばし、三段飛ばしできるといいんですけど、まずは一歩ずつがんばります」と来季への意気込みを語ります。 監督、コーチ陣とともに力を合わせ、強いチームを作りあげていきます。